何かが尻尾を引っ張って居る。
断続的に、且つ力の強さも様々に何度も尻尾を引っ張って居る。
しかし吾輩はまだ微睡みの中である。
此の無粋な何者かを振り払う様に、吾輩は大きく尻尾を動かした。
何かが尾の先に触れた様だが、其れっ切り尻尾を引っ張る何者かは居なくなった様である。
平穏を取り戻した吾輩が再び深い眠りに身を委ねようとした時、今度は髭を引っ張る者が現れた。
此の髭は吾輩の自慢である。
常から容易く触れるを許しはしない。剰え引っ張る等とは暴挙も甚だしい。
吾輩は跳ね起き、着地と同時に身構えた。
全身の毛を逆立てる様にして睨め付けると、其処には驚いた顔をした小さき儕輩が佇んで居る。
吾輩の誇りに無遠慮な足跡を残そうとした何者かは、しかし無邪気と言う最強の楯を携え、静かに吾輩に近付いて来る。
吾輩の陥落は、火を見るより明らかであった。
此の小さき征服者が何故に吾輩の眠りを侵略したのか、其の目的は直ぐに判明した。
服従を余儀なくされた吾輩の溜息に合わせる様に、征服者が天空を指し示したからだ。
促される様に従い、天を見上げる吾輩は、其処に侵略の理由を見付ける。
……アレを取ってくれと言うのか……
然し其れは不毛な事。
吾輩も過去、何度となく挑んでは其の度に苦汁を飲まされて来た。
また、首尾良く取れたとして、其れが期待を裏切る物である事も今の吾輩は知ってしまって居る。
丁度一年前の事である。
吾輩は何とかアレを地上に引き摺り下ろす事に成功した。
だが、地上に降りた其れは、天に在る時の様な雄大さを失くし、薄く平たく、ただ力無く横たわるだけであった。
アレはそう言う物である。
仕留めた所で、腹を膨らます事も出来ないのだ。
吾輩は、此の小さな征服者がどう説明すれば納得するだろうかと思考を巡らし始めた。
五色の波濤の下、数匹の巨大魚が風を受けて泳ぐ其の足元で。
深沢幸弘
